| パシャ! 少女のつま先が降りると、波打ち際の水が陽光にきらめきはじけた。 「シンジーーーー!」 走るのに邪魔に想ったのか、腰に巻いていた水着とお揃いの白いパレオを外すと、それを羽衣か羽根のようにひらめかせ、少女は後ろからマイペースに歩いてくる少年を呼んだ。 「今いくよ。マナ。」 少年は、少し焼けた顔に白い歯をみせ、彼女の言葉に笑顔で応えた。 ![]() ★☆★☆★☆★☆★☆ そして、そばにいる君へ ★☆★☆★☆★☆★☆ 西暦2018年。夏。 一組のカップルが海に来ていた。 白のビキニ姿で楽しそうに跳ねるような足取りで汀を歩く少女は、注目を浴びている。 暑い太陽の輝きにピッタリのへたなアイドルなど顔負けな笑顔と、一見スレンダーに見えるがボリュームたっぷりのバストと大きくて引き締まったヒップをキチンとおさめた女性らしいボディーラインは、浜辺の男性が眼を奪われるのに十分過ぎるほど魅惑的なものだった。 だが、その少女の瞳は、すぐ後ろをゆったりとした感じで、パラソルとバスケットを持って歩いている少年に向けられている。 紺のパンツの上に、ヨットパーカーを引っかけただけのシンプルな格好だが、繊細で中性的な顔立ちに似合わない意外なほど頼もしい雰囲気は、こっちはこっちで女性達の視線を集めていた。 もっとも・・・。 この二人の眼にはお互いしか映っていない様だった。 「シンジ。ここにしよ。」 「うん。じゃ、パラソル立てるから、マナはシート敷いて。」 「うん♪」 二人仲良く準備を終えると、二人揃って仲良く座り込む。 マナはシンジの肩に頭を預けると、幸せそうに微笑んだ。 「シンジ。」 「なんだい?マナ。」 「これからは、ずっと一緒だね。」 「うん。」 そう言う二人の左手には・・・お揃いのプラチナカラーの指輪が光っていた。 「さ!泳ご!」 「う、うん。」 「・・・不安?」 「だ、大丈夫だよ。もう、ちゃんと泳げるんだから。」 「あはは。私も海で泳ぐの初めてだもん。おんなじだよ。さ、いこ!」 マナに手を引かれ立ち上がると、二人は並んで海に入っていった。 4年前。 第14使徒ゼルエル戦の後、サルベージされた碇シンジはネルフから出た。 加持の言う通りにやるべき事・・・初号機パイロットとして最後の仕事をやり終えたシンジに、今度こそ、ここに残る理由は一切なかった。 なぜなら、彼の胸の内には果たしたい約束が既に存在していたからだ。 もう一度・・・マナと会いたい。 戦略自衛隊のスパイとしてシンジに近づき、そして共に惹かれあっていった少女の存在は、彼にとっては人類が云々より、遙かにリアルで重要な物となっていた。 この時のことで、決断と吹っ切る勇気を知ったシンジは、それを躊躇する事無く彼女のために使っていた。 三度目の別れに辛そうな笑顔のミサトにさよならを告げ、その時もやはり姿を見せなかったアスカや、それぞれの事情で会わずに別れる事となる友人達に心の中で別れを言った。 そして、電車が走り出した時、ホームの端に立つ水色の髪の少女に気付いたが、それは初めての時と同じように、いつの間にか消えていた。 シンジは長野の田舎にあるアパートで一人暮らしを始めた。 今のシンジは自分の面倒を見るくらいはお茶の子だったのでさして不自由はなく、それにミサトから自分の国際公務員としての給料を収めたカードを貰っていた事もあり、生活には問題はなかった。 とは言えど、それに頼る事をこの時のシンジは良しとせず、生活費分は稼げるようアルバイトも始めた。 最初はさすがに見知らぬ人達との中に飛び込むのはやはり苦痛に感じていたが、しばらくすると、今まで自分が想像していたよりもずっと、周りの人達は他人への思いやりと気遣いを持っている事にシンジは気がついた。 自分が考えてた、知っていた「大人」って、いったい何だったんだろう・・・。 それは第3新東京市では、疑問にも感じなかった事だった。 だが、それはいつも気付く前に挫け、眼と耳を塞いでいた臆病さがシンジの中から消えかけていたからこそ気付いたことに他ならなかった。 そして、その事に気がついたシンジは、人の輪の中に自然と溶け込めていくようになっていった。 やがて新しい学校とアルバイトの二足の草鞋にも慣れてきたある日の夜、シンジの部屋をノックする音がした。 すぐ脇のキッチンで夕飯の支度をしていたシンジは、誰かと尋ねたが返事はない。 しかし、ドアの前の気配は立ち去る気配も無かった。 カチャ シンジが恐る恐るドアを開けてみる・・・。と、そこには、一人の少年が立っていた。 「あ、あの・・・何のようですか?」 刈り上げた頭に野球帽を目深に被り、小振りの顔には大きいミラーグラスをかけた少年は、シンジの質問に小さくぽつりと答える。 「加持リョウジからの伝言。」 「え?」 「・・・・・・。」 それっきり黙り込んでしまった少年にシンジは困惑してしまった。 「あ、え、えっと。中に入る?」 そう言ってシンジは少年を中に招き入れた。 加持の伝言ならあんまり外で話さない方がいいのかな?という判断と、その少年から悪い印象を受けなかったからだ。 少年を部屋に入れると、来客用の座布団を初めてシンジは使った。 お茶を入れるためにケトルを火にかけて、シンジはテーブルを挟み少年の前に座った。 「え・・と。あの、加持さんからの伝言って?」 「・・・・・・」 だが、少年は黙ったままうつむいている。 「あの・・・?」 聞いても答えはない。やはり俯き黙り続けていた。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 やがて、ケトルの笛が湯が沸いたことを知らせてけたたましく鳴った。 「あ、お茶、いれるね。」 シンジは立ち上がると、火を止めてきゅうすにお茶の葉を入れ、湯飲みに湯を挿して温め始める。 「きりしま・・・まなの事。」 「!!」 ポツリとこぼれるように少年の口から漏れた言葉に、シンジの身体に電流が走った。 「君・・・マナの事知ってるの!?」 相変わらず俯いたままの少年は微かに頷いた。 「どこ!?どこにいるの!?お願いだから教えてよ!」 シンジは少年の肩をガシッと掴み強く揺さぶった。 「・・・会いたいのか?」 少年の押し殺したような声に、シンジは少し冷静になれた。掴んでた肩を離し少年の前にストンと腰を下ろす。 「うん・・・。会いたいよ・・・。僕は彼女に会いたくて・・・あそこから出てきたんだから。」 「その子がどうなってても?」 「え?」 その言葉にシンジは衝撃を感じた。 マナが彼の前から去ったのは戦自の追跡を逃れるためだ。加持がどこまで手を回したかは判らないが、万一の場合、整形くらいはしていてもおかしくは無いはずだった。 少年が言ったのはその事だろうか。 いや、ひょっとしたら・・・最悪の場合、既に・・・・。 最後の想像を彼は必死に首を振って否定した。 「・・・・」 黙り込むシンジに少年は重ねて尋ねてきた。 「どうなの?それでも会いたいって思うの?」 シンジはゆっくり顔を上げるとハッキリと頷いた。 「うん。」 そのシンジの視線に少しビクッと肩を震わせる少年。 「僕は・・・さっきも言ったけど、彼女と会いたくて出てきたんだ。どんな結果待ってても、僕はやっぱり彼女に会いたい。」 「・・・後悔するかもよ?」 「かまわない。僕は、避けてばかりじゃ前に行けないって事、知ったんだ。だから・・・だからどんな後悔をしたってかまわない。僕は、僕はマナに会いたい!」 自分でも驚くほど感情がほとばしった言葉だった。 「・・・あ、ごめん。驚かせちゃった?」 少年はビックリしたように真っ直ぐこちらを向いていた。 それに気付いてシンジは、頭をかきながら少年に謝っる。 すると、少年の口元が少しだけ笑ったようだった。 「それじゃあ・・・・」 「え?」 「笑っちゃ・・・いやだよ・・・。」 「え!?」 少年はそう言って被りっぱなしだった帽子に手をかけた。 それを脱ぐと、焦げ茶色の短く刈り込んだ髪があらわれた。 そして、少し小刻みに震える手でミラーグラスを外すと、少したれ眼気味の漆黒の瞳が現れた。 ただ、眉は剃り込んでいるのか眉間の所に数ミリの長さあるだけだった。 「あ・・・・。」 特異なその風貌の中に、シンジはハッキリと見つけていた。 その素顔を。 「ま・・・・マナ!!」 「わっ!」 テーブルを蹴飛ばして、シンジは少年に抱きついていた。 「マナ!マナ!!」 「シン・・・・・ジ・・・シンジ!シンジ!!」 一目見て、自分を思い出してくれて抱きしめてくれたシンジ。 その瞬間、少年だった少女は久しぶりに本来の心に戻っていた。 マナは第三新東京を出ていった後、この街にある小さな工場に預けられた。 性別を男に、名を「敷島ケン」と変えて、加持の知人であるここの工場長の家に住み込ませて貰っていたのである。 かなり大胆で少女だったマナには負担の大きな手段だったが、マナもシンジとの約束を糧に必死で少年を演じ続けて来たのだった。 それから再会を果たした二人は、今度こそゆっくりとその絆を深めあっていった。 「おっす、シンジ!起きてるか?」 「う・・うん・・・って、わ!ま、マ(ンブッ)」 「おれは、ケ・ン!」 「あ、ごめん。おはよ。ケン。」 「おはよ♪朝飯できてるぜ。」 「え?作ってくれたの?」 「いいだろ?一応自炊してるから。まあ、味はそれなりかもしんないけどさ。」 「・・・ありがとう。ケン。顔洗ってくるよ。」 「(ぽ)あ、ああ。」 「いただきます。」 ず〜〜。 ゴク。 「ど、どうだ?」 「・・・・・・。」 ポタ・・・ポタ・・・ 「!? な、何泣いてんだよ(汗)ま、まずかったか?」 「ううん。おいしいよ・・・。ただ・・・。」 「?」 「気がついたんだ・・・。僕は、人が自分のために作ってくれた料理ってこんなにおいしいんだって事、今まで知らなかったんだって・・・。そしたら、なんか、涙が・・・、出ちゃって・・・。」 「・・・・・シンジ、一人暮らしじゃなかったろ?」 「(ふるふる)家事は僕だけでやってたから。」 「・・・・・・・おかわり、あるぞ。」 「うん。」 この日以来、マナは毎朝毎夕、シンジの部屋を訪れるようになった。 「あれ?ケン。」 「よ、よう。」 「なんだ?シンジ。友達か?」 「う、うん。敷島ケンっていうんだ。ところでどうしたの?こんな時間に。」 「え?いや、ちょっと近く寄ったもんだから、顔でも見て行こうかなって。」 「あ、そ、そうなの。」 「あ、ああ。」 「・・・・・・・」 「・・・・・・・」 「おい・・・シンジ。男同士で頬染め合うのはちょっとまずいと思うぞ。まあ、おまえの趣味はとやかく言う気はないけどさ。」 「「そ、そんなじゃないよ。」」 この日以来、シンジはジュネ説を級友達に追求される事となり、一部の女生徒から執拗に謎の取材を受けることとなった。 「うるさいってなんだよ!シンジの事心配してきいただけじゃないか!!」 「それがうるさいんだよ!話したくない事だってあるんだから!」 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」 「・・・・・・・・・・」 「わかったよ・・・。だったら勝手に鬱いでればいいだろ!!」 ガチャ! バターーーン 「・・・・・・」 コッチコッチコッチコッチコッチコッチコッチ 「マナの馬鹿・・・。僕だって話し辛いこと、あるんだ・・・。」 コッチコッチコッチコッチコッチコッチコッチ 「・・・・・・・。」 コッチコッチコッチコッチコッチコッチコッチ 「・・・・・・・言い過ぎ・・・だったかな。」 コッチコッチコッチコッチコッチコッチコッチ 「そんなこと無い!マナが悪いんだ・・・。マナが・・・。」 コッチコッチコッチコッチコッチコッチコッチ 「・・・・・・・・・・・・・・・・。」 コッチコッチコッチコッチコッチコッチコッチ 「・・・・僕は、僕は悪くなんか無い・・・・。」 コッチコッチコッチコッチコッチコッチコッチ 「・・・・・・・・・・・・・僕は・・・・・・・・・。」 コッチコッチコッチコッチコッチコッチコッチ 「・・・・・・・・・・悪くないの?」 コッチコッチコッチコッチコッチコッチ 「・・・・・マナの気持ち、聞かなかった・・・・・。」 コッチコッチコッチコッチ 「・・・・・・・・・・マナは聞こうとしてくれたのに・・・・。」 コッチコッチコッチ 「聞かなきゃ・・・・。」 コッチコッチコッチ 「話さなきゃ・・・・。」 コッチコッチコッチ 「謝らなきゃ。」 コッチコッチ ピポポポピポポポパ コッ『カチャ』 「もしもし?・・・・・ケン?ごめん・・・。」 この日、シンジは謝る事の意味を初めて知り、そして許し合う為の勇気を知った。 シンジの言葉を受け止め、応えてくれたマナがいてくれた故に・・・。 そして、その日は来た。 学校の授業中、突然南の空が白く光った。 強い地響きが校舎を揺らし、そしてしずまった。 その数刻後、白く輝く翼のような光が空を覆い、シンジはその巨大な輝きの中に、見知った少女の後ろ姿を見た。 「・・・綾波?」 少女は、まるでその声が聞こえたかの様に、ゆっくりと振り向くと微笑んだ。 悲しげで、それでいて嬉しそうな・・・そんな笑顔だった。 そして次の瞬間には、はじめから何も無かった様にその光は残像すら残さず・・・ 消えた。 シンジの知る「その時」の出来事はそこまでだった。 そして、数日後。 シンジはマナの働いている工場に呼ばれていた。 社長室にはいると、作業服姿のマナと、同じ姿の壮年の男性が待っていた。 「こ、こんにちわ。」 「いらっしゃい。碇・・・シンジ君だね?私がケンの後見人の結城ヒロヒトだ。」 「は、初めまして。」 「ははは。そう堅くならないで。さ、座ってください。」 ヒロヒトは、気さくな笑顔でシンジを促し、シンジもそれに応じてマナの隣に座った。 「さて・・・碇君。そして、ケン・・・いや霧島マナ。」 「「!!」」 二人は、彼が「霧島マナ」とケンを呼んだことに驚いた。 その名前は、人前では絶対禁句の物であり、その事は彼女を匿っているヒロヒトの方がよくわかっている筈の事だった。 「率直に言おう。第三新東京市・・・ネルフが消滅した。」 「「ええ?」」 「気がついていると思うが、5日前のあの日だ。多くは言えんが・・・ネルフの存在意義だった使徒の驚異も終結を見たと言うことになった。」 「・・・・・」 ヒロヒトの言葉に、シンジの脳裏にあの街の友人達が浮かぶ。 「シンジ・・・。」 辛そうに拳を握るシンジを、マナは心配そうに見つめた。 「安心したまえ。君の学友だった者達は無事だ。あの日の三日前から強制疎開がされていてな。」 その言葉にシンジはホッとなる。 だが、すぐに真剣な表情となり、ヒロヒトを見つめた。 「あの・・・ミサトさんは?アスカや綾波は?」 「・・・ネルフ関係の人物についてはまだ公表はできない。」 「そんな・・・。」 「事態が思ったより深くてね。いまは一般人の君には伝えることはできないんだ。すまない。」 「・・・・・はい。」 「時期が来れば必ず知らせよう。約束するよ。」 「はい。」 気丈に表情を引き締めて返事を返したシンジをヒロヒトは優しい笑顔で受け止めた。 「さて、実はここからが今日君たちを呼んだ本題なんだ。・・・・マナ。」 「ハ、ハイ!」 「使徒戦終結と事態の収拾の為、政府はこの件を完全に隠蔽することにした。」 「え?・・・それって、どういう・・・」 シンジの問いに、ヒロヒトは腕を胸の前で組むと一息おいてこういった。 「つまり、ネルフ・使徒・エヴァンゲリオン・・・この件は無かったこととされた。」 「「!!?」」 「事態が異常すぎた為もある。いたずらに人心を混乱させない為の処置・・・と言うことだそうだ。」 もちろん、事実はネルフ自体の行ってきた傲慢な行為を公にしない意味の方が大きいのだろう。 「それに伴い・・・戦自のトライデント計画も記録から抹消されることになった。」 「・・・・・・・・・え?」 「あの施設も、トライデントという兵器も・・・・」 ヒロヒトはそこで一旦言葉を区切ると、ゆっくりとした口調で言葉を繋いだ。 「そしてその兵器のパイロットだった君も戦自には最初から存在しない事になった。・・・トライデントの開発理由が使徒迎撃を建前としていた以上、当然と言えば当然なんだがな。」 「・・・・・。」 半ば呆然とした表情のマナに代わり、シンジがヒロヒトにたずねた。 「あの、それってつまり。」 「そう。戦略自衛隊からの脱走兵『霧島マナ』は最初からいない・・・と言うことだ。」 その言葉の持つ意味を、シンジは理解した。 「そ、それじゃあマナはもう追われる事はないんですね!?」 「ああ。アレに関わっていた上層部や技術関係の人間達も、すでに相応の処罰が取られたそうだ。・・・マナ。君はこの事を聞いた今から・・・自由だ。大変だったね。」 「マナ!」 その言葉にシンジはうれしさに表情を崩し、隣に座っているマナを見た。 「・・・・」 しかし、シンジの目に映ったマナは、深く俯き伸ばした腕を両膝に押しつけて震えていた。 「マナ?」 ポト シンジが不思議に思い声をかけたその時、彼女の瞳から光る滴が落ちた。 「マナ、泣いてるの?」 しかし、マナはシンジには返事をせず、俯いたまましゃべりだした。 無理に押し殺したような、そんな震える声で。 「じゃ・・・じゃあ・・・ムサシは?ケイタは?」 「!?」 ムサシ=リー=ストラスバーグ。 浅利ケイタ。 共にトライデント計画でパイロットとして訓練を続けていた二人。 そして、彼女の命を救うために消えていった彼女の友人。 シンジ以外で、最もマナに親しかった『家族』。 「ユウヤは?カコは?ミツルくんやヒトシさんは!?みんな、みんな、最初から生まれてもいなかったことになっちゃうのか!?」 「マナ・・・。」 それはシンジの知らぬ、マナが知る人達の名前だった。 そしてマナの心にハッキリと在る優しい人達。 好きだった人達。 幾度も繰り返された無謀な実験に若い命を落としていった仲間達の名前。 「そんなの、ひどいよ!うれしくないよ!みんな、みんな俺と一緒にいたのに!!居たのに・・・・う・・・うえ・・・・うえええ」 「・・・・・」 ヒロヒトは泣き出すマナを辛そうに眉を寄せ、見つめている。 恐らくこの処置が実験中に死んだ子供達の存在も消してしまってる事にマナが気が付くのを、薄々予測していたのだろう。 「マナ。」 シンジの腕が、少し震えながらマナの肩をつかみ抱き寄せた。 「えぐ・・・シンジ・・・シンジィ。」 マナも涙でぐしゃぐしゃの顔をシンジに見せると鼻声のままシンジの名を呼び抱きついてきた。 「う・・うあ・・・うわああああああああああああああああああああああ」 そして、何の躊躇いもなく大声で泣き出す。 シンジもそんなマナを優しく抱き寄せただジッと胸を貸していた。 そして、しばらくしてマナはやっと泣きやんだ。 ヒロヒトは涙でぐしゃぐしゃになってるマナに、そっとティッシュを差しだした。 「あ・・ありがとうございます。」 「なあ、マナ。」 優しく、そして深い声でヒロヒトはマナに語りかけた。 「確かに君が思った通り、この事であそこにいた少年兵達はデータ上存在しなくなった。だがな、それはどこまで言っても、データの上だけのことだ。実際に知り合い、共に生きてきた君にとっての彼等まで消えるわけでは無いんだ。」 「・・・社長・・・。」 「君が生きてる限り、君が覚えている限り、彼等はこの世界に存在したんだ。それは、軍のデータ上よりずっと大事な事実なんだ。その事を忘れないでほしい。」 「はい・・・。」 ヒロヒトの言葉にマナは頷く。 「マナ。僕だって覚えてるよ。」 「シンジ・・・。」 「ほんの少ししか会えなかったけど、僕は確かにムサシくんとケイタ君って人達が居たことを知ってる。マナをとても大切に思っていた人達がいた事。」 「うん。」 「だから、がんばって生きていこう。きっと、これだって僕たちが知り合った人の生きた証になるはずなんだから。」 「うん、うん。ありがと、シンジ・・・。」 そして、マナはもう一度シンジの肩に身体を預けた。 ヒロヒトはそんな二人を、優しく見つめていた。 さて、それからがちょっと一騒ぎだった。 女の子であることを隠す必要の無くなったマナは、今まで叩き込むようにして身につけた仕草や言葉遣い、そして容姿を早く元に戻す事に決めた。 やはり、シンジには女の子としての自分をめいっぱいに知ってもらいたいと思ったからだ。 短く刈り込んでいた髪も伸ばし始め、眉もそることももちろんやめた。 問題なのは身に付いた男の歩き方や仕草の方だった。 なにしろ「かつての女の子らしい仕草」と考えてみても、そんなこと覚えてる訳もない。 マナはとにかく、モデルの動きやら街の女の子達の仕草を改めて研究して、改めて身につけ始めた。 もっとも、その研究の過程で、男と信じてる同僚やシンジを通して知り合った友人が、日増しに女性化していく少年の姿に一歩引いていたのはご愛敬であろう。 だが、そんな努力もみのり、約1年後。 かつてよりはるかに美しい女性となって、霧島マナはシンジの元に戻ってきたのだった。 そして、3年後の今。 シンジとマナは、役所に籍を入れ終えた足で近場の海へとやって来ていた。 日帰りできるくらいの距離だがホテルもとり、ささやかな新婚旅行だった。 カララ マナが引き戸を開けると、そこは石造りの露天風呂だった。 沈み始めた夕日が、風呂全体を朱に染めている。 「わぁ・・・・。すっごぉい・・・。ね、シンジ。はやくおいでよ。」 「う、うん。マナ。他に誰か居ない?」 「もう。混浴に来てるんだから別に遠慮する事無いでしょ?ちゃんとタオル巻いてるんだから。」 「そ、そうだね。」 マナに続き、シンジもおっかなびっくり中に入る。 どうやら利用客は自分たちだけのようだ。 ざあっと身体を流すと、二人は仲良く湯船につかった。 柔らかな湯が、少し焼けた肌に心地よい。 「あ、マナ。白くなってるよ。」 シンジが湯船に浮かぶマナの胸の水着の跡をツンとつつく。 「きゃん。もう、H!」 「え?触っちゃいけないの?」 「・・・・・H。」 「ごめん・・・だめ?」 「うん・・・いいよ。」 「そう、それじゃ・・・。」 「あー!そうじゃなくて!ここじゃだめだってば!」 「クスクス、冗談だよ。マナ♪」 「もう・・・。」 そう言いながら、コテンとシンジの肩に頭を預けてシンジの腕に手を添えた。 その手にシンジの手が重なる。 「綺麗な夕日だね・・・。」 「うん・・・。」 沸き立つ湯気にまじって香る、マナの匂い。 すっかり元の長さと色に戻った明るい栗色の髪にシンジはそっと触れてみる。 「ん?」 マナが顔を上げてシンジを見て“何?”とチョコンと首を傾げる。 「・・・なんでもないよ。」 そういって、シンジはゆっくりとマナに顔を近づける。 マナもゆっくり目を閉じて、シンジを待った。 二人の唇がそっと重なった。 「あは♪」 「ははは」 屈託無く笑い会う二人。 するとマナは何を思ったのか、立ち上がると湯から上がりシンジに背を向けて立った。 夕日をバックにシルエットとなったマナが少し俯いたかと思うと、 バッ 「マ、マナ!?」 身体に巻いたバスタオルを外して、一糸纏わぬその肢体をシンジの前にさらした。 うっすらついた水着の跡もなまめかしく、なにより3年前の反動であるかのように女性として見事に成長した彼女の裸体は、シンジの目を釘付けにした。 「・・・シンジ。私、女の子になった?」 「うん・・・。すごく綺麗になった。」 そう言って、シンジも湯から立ち上がりマナの前に立つ。 シンジもタオルを脱ぎ捨て、マナと同じに生まれたままの姿になった。 「マナ・・・。愛してる。」 シンジは、この時初めてマナにこの言葉を継げた。 「はい。私も、シンジのことを愛してます。」 そして、再び二人の唇が重なり影が一つとなる。 これが、二人の誓いであり結婚式となった。 偽り無い心と心を結ぶ、誓いの言葉と共に。 fin 後書き えー、かなり遅くなりましたが、ひろさんがマナのCGを書いてくれたお礼のSSです。 しかし、書き出したのが掲載とほぼ同時にも関わらず、今までかかってしまいました。 なにやってんでしょうか(^_^;。 内容はまあ、シンジがマナと再会に行く最も早い時期ってこんなかな?と言う発想で書いた物で、成り行きを綴っただけみたいな物です。 シンジはマナの為にネルフを出てしまいます。 なので、その影でアスカ様が洞木家の穀潰しになっていようと、ミサトが加持の遺言をゴミ溜と化したリビングで聞き号泣する事になっていようと、彼は知ることはありません。(笑) それに、人が人補うって事は、そんなに難しすぎる事でもないんじゃないかな?とも思って書いてみました。 それでは、ひろさん。 これからも頑張ってください。 今度はEVAヒロイン's4名「アスカ、レイ、マナ、マユミ」とか描いてもらえると嬉しいかなあ・・・。(笑) 比嘉 |