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「───ウェイン」


愛しい恋人の名前を呼ぶ。
名を呼ばれた彼は俺の方を振り向き、手にしていた荷物を置いて走って来た。…急ぎの仕事よりも俺の事を優先して…。

「何ですか?ライエルさん」

琥珀色の澄んだ瞳で、真っ直ぐ見つめて俺に問いかける。艶やかな黒髪が陽の光に映えて、彼の輝きをより引き立たせていた。

「…いや、なんでもない」
「え?何でもないって…。もう、仕事中なのにふざけないで下さい!」

ふざけて仕事を中断されたと思ったウェインは、俺に背を向けて荷物を置いた場所に急いで戻ろうとした。俺は彼の腕を掴んで力任せに引き寄せたため、彼は「う、うわぁ!?」と声を上げて俺の胸に顔から飛び込む状態でぶつかった。


「痛っ…な、何するんですか!…え?ちょ、ちょっとライエルさ…んんっ!むぅ…」

ウェインの身体をきつく抱きしめ、抗議しようと開いた唇を強引に塞いだ。
彼は驚いて歯を食いしばろうとしたが、その前に舌を潜り込ませてきつく絡めると、観念したのか身体の強張りを解いて俺のジャケットをギュッと掴み締めながらて、舌をぎこちなく絡ませてきた。

ほんの数秒か、それとも1分近くか…。
きつく抱きしめていた腕の力を解いてウェインの肩を抱き直し、ゆっくりと唇を離すと彼は「は…あぁ…」という溜息にも似た喘ぎ声を吐き出して俺を見つめた。今の口づけですっかり力が抜けたのか、さっきまでジャケットを掴んでいた手はだらりと下に伸び、細身の身体は俺の腕に完全に凭れかかっていた。そして宝石の琥珀に似た輝きを持つ目は、とろんと熱く潤んでいた。
ウェインはもう一度息を吐き出すと、俺の唇を人差し指で躊躇いがちに軽くなぞりながらこう言った。


「ふ…。ライエルさん、どうしたんですか?いきなり…。周りにみんながいるのに…こんな事」
「───ウェイン、俺が好きか?」
「……好き、ですよ?とっても大好きです。ライエルさんは?」
「愛している」
「ライエルさん…、俺も。え?あっ…」

お互いの想いを確認すると、俺はウェインの腕を引いて壁の隅へと連れて行った。もっと彼が欲しい、という衝動を抑える事が出来なかった───。
そこは死角になっていて周りから見られる事はない。彼は一瞬戸惑いを見せたが、それ以上の抵抗はせずに再度俺の唇を受け入れた。




しばしの間、ウェインの柔らかく甘い唇を貪っていたが、ゆっくりと唇を離して素肌を滑らせた。そして口づけで熱を帯びてしまった彼の中心を引き出して、そっと口内に包んだ。
彼は快感を拒むかのように身体を捩りながらも、無意識に腰を突き出すように動かして愛撫をねだってくる。俺はそれに答えるように何度も唇と舌を絡ませ、はじけ飛んだ彼のほろ苦い熱を残さずに受け止めた。


その後、別れを惜しむように何度も深い口づけを交わし、慌てて荷物を置いた場所に戻ったウェインだったが、仕事を放ったらかしにしたとシャルローネに思われたらしく、彼女に怒られて小さくなっている後ろ姿を見つけ、俺は「すまない」と心の中で謝っていた…。



ウェインと恋人関係になって、早2か月…。俺の生活環境にも変化が生まれていた。

彼の明るく元気な力強さが、生きる気力さえ無くし何事にも無気力だった俺を解放し、今では彼と共に行動する事が楽しく感じていた。
俺のことをインペリアル・ナイツの頃から知っているカーマインやゼノスは「今のお前は、いい意味でウェインに振り回されている。…迷いの森に居たお前から比べれば、とてもいい事だ」と口をそろえて言う。

…彼らの言う事に、俺自身も納得している。
今の俺には、何をおいても優先して守るものがある。自分が傷つき、立ち上がれなくなろうとも、守る人…。その存在は、俺がこの世で生きる限り、永遠なのだ───。

と、俺は自分にあてがわれた宿屋の一室で、窓辺に腰掛けながら考えていた。
今は真夜中───。
外は夜行性の鳥の鳴き声が、かすかに聞こえる程度で動くものはない。美しい輝きを見せる星々が夜空を彩っていた。


「そろそろ寝るか…」

そう一人呟いて、俺は窓辺から離れてジャケットを脱ぎ始めた。
全裸になってベッドに入り、部屋の明かりを消そうとランプに手をかけた時、ドアが遠慮がちにノックされた。

「誰だ?」
「……ウェインです」

側にあったバスタオルを腰に巻いてドアを開けると、枕を抱えたウェインがぽつんと立っていた。
俺と目が合うと、少し頬を赤く染めて「…来ちゃいました」と恥ずかしそうに俯いて答えた。


「ライエルさん、もしかして寝るところでしたか?」
「ああ。…それより、その枕はどうした?」
「そうそう、聞いてくださいよ!俺も寝ようとしてベッドに入ったんですけど、枕カバーが破けてて中綿が出てたんですよ。なので主人のところに行って交換してもらったんです。それで、その…ライエルさんの部屋の前を通ったら、どうしてるかなって思って…そうしたら逢いたくなって……」
「そうか。───せっかくお前の枕もあるんだ、今日は俺の部屋で寝ていけ。いいな?」
「はい…」


こくん、と頷いて小さく返事をした彼の腰に手をまわし、抱き寄せながら室内へと入れた。
密着する身体をより深く抱きしめてやると、ウェインは嬉しそうに俺の胸に頬を擦りつけながら背中に手をまわしてきた。
そんな可愛らしい姿を見せる彼に思わず苦笑した俺に「どうしたんですか?」と顔を覗き込みながら問いかけた。

「いや…。本当はお前の部屋に行こうと思ったんだが…昼間、彼女に怒られていただろう?すまなかった。…だからお前の部屋に行きづらくなった」
「そんな。俺も望んでああなった事ですから…。大丈夫、気にしていません。それよりあの、俺……どうして部屋に来てくれないのかな、って逆に気になって…その…」
「ふふっ、そうだったのか。すまなかったな、期待に答えてやれなくて。───明日は休みだからな。それなら思う存分可愛がってやるから、覚悟しておけ」
「…うう〜〜。ラ、ライエルさんのエッチ!」


俺からバッと勢いよく離れて、枕をぎゅうと抱きしめながら耳まで赤くして抗議をする彼を引き寄せ唇を深く塞ぐと「んぅ…」と切なげな声を上げた。
熱い口づけに次第に身体の力が抜け、全てを俺に預けるようになると、彼は手にしていた枕を床に落とし、俺の身体にすがるように腕をまわした。





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