W h a t  i s  l o v e





「あ、そうだ。缶ジュースでも買っていこう。何がいいかな?…紅茶にしようかな」

自動販売機を目にした俺は、財布から小銭を取り出し、ミルクティーのボタンを押した。ガタン、とミルクティーの缶が取り出し口に落ちて、俺は身体をかがめて取り出した。



今は、夜の9時10分───。
俺は七条さんの部屋に行く途中だった。

一人で夕食を食べていた俺に、西園寺さんと七条さんが声を掛けてきた。
俺の両隣が丁度空いていたので、彼らはそこに座り、一緒に食事をした。雑談をしながら食事をしていると西園寺さんから「啓太、ゴールデンウィークはどこかに出かけるのか?」と質問された。

「えっと…今のところ予定はないんです。西園寺さんは?」
「私は家に帰る予定だ。だが、のんびりする訳ではない。仕事があるんだ」
「そうなんですか、忙しいんですね。…七条さんも西園寺さんについて行くんですか?」
「いいえ、郁の仕事というのは家族内でのプライベートな仕事でして。僕は一緒には行きません。…ああ、そうだ。伊藤君、このあと何か予定ありますか?」
「え?これからですか?いいえ、何も…」
「それはよかった。では、後で僕の部屋に来て下さい。少しお話があるんです」
「あ、はい。わかりました。それじゃ、風呂にも入りたいので9時過ぎでもいいですか?」
「ええ、いつでもいいですよ。お待ちしてます」

そう言って、七条さんはにっこりと微笑んだ。「何の話ですか?」と尋ねても「部屋に来るまでナイショです」と答えるだけで、その場では教えてもらえなかった。


自動販売機で買ったミルクティー2缶持って、俺は七条さんの部屋に来た。
“トン、トン”とドアをノックし「伊藤啓太です」と言うと「どうぞ、開いてますよ」と奥の方から声が聞こえた。
俺はドアノブをまわして「失礼します〜」とドアを開けて中に入った。が、いきなり視界に黒いモノが飛び込んで来て、避ける間もなく体当たりしてしまった。

「ぶっ!!」

体当たり、と言うより顔から突っ込んで黒いモノと激突した。激しい痛みはないけど、鼻に鈍く衝撃がきたので鼻先をさすっていると、その黒いモノに俺の身体は優しく抱き込まれた。
そろそろと顔を上げると、その黒いモノは七条さんが着ていた服だとわかった。


「し、七条さん。ごめんなさい!いきなりぶつかって。てっきり奥の方にいるもんだと思ったから、まさか目の前にいるなんて…」
「いいんですよ。それに、わざと小さい声で言ったんですから。伊藤君が僕の胸に飛び込んでくれるようにね」
「え?…わ、わざとですか」
「はい、すみません。ちょっとイタズラしてしまいました」

いつもの笑顔を向けながら、しれっと言う七条さんに、俺は頬を少しふくらませて「何でそんな事を言うんですか」と文句を言った。
すると急に目を細めて甘い表情をされたので、思わずドキッとした。腕の力を強めて抱き込まれ、そっと俺の顎を掴んで上を向かされた。

「すみません。君が来るのが待ちどおしくて、ドアの前で待っていました」
「し、七条さん…」
「実はね、お話と言うより提案があるんです。それをどうしても聞いてもらいたくて部屋に呼びました。聞いていただけますか?」
「は、はい。もちろんですよ!」
「よかった。ですが、その前に。───提案は君を愛してからでいいですか?」

七条さんは少し身をかがめて唇を塞ぎ、舌を差し入れてきた。驚きつつも七条さんに合わせてなんとか自分からも舌を絡ませる。それからしばらく唇を合わせていたが、七条さんは絡ませていた舌を自分からほどいて唇を離した。
手にしていたミルクティーの缶は取り上げられテーブルの上に置かれた。そして…俺の身体は軽々と抱き上げられベッドに運ばれた。

つまり……。
俺は無条件で、七条さんの部屋にお泊まりコースとなった訳だ。



「ところで伊藤君。提案と言うのはですね…」

ベッドで何度も愛し合った後、俺は今、七条さんの腕の中にいた。
間近に七条さんの甘い顔があって、頬や額や唇にキスが降ってくる。触れ合う肌から優しい温もりを感じて、俺は夢見心地で七条さんの胸に頬を寄せた。

「ゴールデンウィークといえば、連休以上にもっと大切な事がありますよね」
「大切な事、ですか?」
「はい。伊藤君のお誕生日ですよ、5月5日は」
「あ、そうだった。へへ…」
「それでですね」

そう言いながら七条さんは俺の手を取って唇を押し当てた。
形のいい唇は指先から手の甲に移動し、ススッとなぞるように腕へと場所を変える。最後には首筋まで動いて、チュッと音をたててきつく吸われた。


「伊藤君の誕生日パーティを僕の家でしたいんです」
「え?七条さんの家って…」
「はい、年越しで一緒に過ごしたあのマンションです。覚えてますよね?」
「は、はい。覚えてます。七条さんのお母さんが使っているセカンドハウスなんですよね。でも、七条さんのお母さんは…」
「母はまだ仕事の為、海外赴任中です。ですからマンションには誰もいません。───僕はね、伊藤君と一緒に年越しをするまで、大晦日や正月があんなに楽しいものだと知りませんでした。ベルリバティーに来る前まではいつも1人で過ごしていたせいもあって、年が明ける事に何の関心もありませんでした。ですが伊藤君と一緒に過ごして、とても楽しかったんです。ずっと一緒に過ごしたいと思った程です。…そんな愛しい、僕の伊藤君の誕生日を二人きりでお祝いしたいと考えたんです。ダメですか?」
「し、七条さん…。お、俺も。俺もすごく楽しかったですよ。…正直言うと、あの広すぎる部屋に七条さんはいつも1人だったんだって思うと、とても悲しかったんです」
「伊藤君……」
「でも、七条さんが俺と一緒だと楽しいって言ってくれるなら、俺もすごく嬉しいです。だから俺も、七条さんと二人きりで祝いたいと思います」

俺の言葉に少し驚いた表情をする七条さんに、俺は自分の気持ちを正直に答えた。
だって、本当にそう思ったんだ。
綺麗すぎて殺風景とも言えるあの広いマンションで、お母さんが仕事でいない時はいつも1人で過ごしていた七条さん…。七条さんは頭が良くて物わかりがいいから何も言わないけど、きっと寂しかったに違いない。
特に家族で楽しく過ごすお正月やクリスマスも1人だった…かも知れないと思うと、俺の事じゃないけど、とても寂しくなる───。

俺は広い胸に抱きついて「俺からも、ぜひお願いします」と言うと、七条さんはとても嬉しそうに。それでいて傷ついたような複雑な微笑みを浮かべると「ふぅ…」と小さく息を吐き出した。
その微笑みの意味がわからなくて、俺は「どうしたんですか?」と問いかける。





「もう、ダメですね…」
「ダメ…?俺、何か気に障る事を言いましたか?」
「そういう意味ではありません。…すみません、今日は君を眠らせる気はありません。伊藤君をもっと愛したくて仕方ないんです」
「そ、そ…そんな。七条さん…」
「君の言葉、表情、声、動作。……伊藤君が僕にくれる全てが、こんなに切なくて甘くて愛しいなんてね。…もし逃げるなら今のうちですよ?どうしますか?───と言っても、逃がす気もありませんし、逃がしません。…伊藤君、僕は君を愛しています」
「……っ」

ああ…。もう、これ以上何も言える訳ないよ。
俺は言葉を詰まらせて七条さんを見つめる。俺を見つめる優しい紫色の瞳、俺の肩を掴む大きな手、俺の脚の間に入り込む引き締まった身体、そして徐々に押し広げて奥へと進んでくる欲望の熱さ…。
俺だって七条さんの全てが好きで好きで、仕方ないんだから。


「し、…あ、っん!七条、さんっ…!!」
「伊藤君…っ。伊藤君、愛して、ます」

腕を広い背中にまわしてしがみつきながら、七条さんの愛情を全身で受け止める。
これで何度目かわからない程の行為をして、熱を吐き出して…そして最後には、七条さんの腕の中で完全に意識を飛ばしてしまった。





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